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神戸地方裁判所 平成3年(ワ)6号 判決 1992年4月16日

原告

池川清子

右訴訟代理人弁護士

林義夫

被告

内田真也

岡芳子

福井稔

右被告三名訴訟代理人弁護士

松岡滋夫

主文

一  本件訴えを却下する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第一原告の請求

一被告内田・被告岡は、同被告両名作成名義の昭和五四年六月二二日付の建物所有権証明書(<書証番号略>)が、偽装文書であることを確認する。

二被告福井は、同被告作成名義の昭和五四年八月一〇日付の建物引渡(取毀)証明書(<書証番号略>)が、偽造文書であることを確認する。

第二事案の概要

一前提事実

1  原告は、岸本スミ子から別紙物件目録(二)記載の建物(以下「本件増築前の建物」という。)を買い受け、有限会社新和興産(以下「新和興産」という。)名義で、昭和五一年八月一一日付で所有権移転登記を経由した(<書証番号略>)。

2  次に、原告は、株式会社中間鉄工所に注文して、昭和五一年九月から一二月までの間に、本件増築前の建物に接して、別紙物件目録(三)記載の建物部分(以下「本件増築部分」という。)を増築した(<書証番号略>)。

3  その後、本件増築前の建物について、昭和五四年六月二二日付で、新和興産から辻川克司に対し所有権移転登記がなされ、更に、同年八月二二日付で、本件増築前の建物から別紙物件目録(一)記載の建物(以下「本件増築後の建物」という。)へと、建物表示登記の変更登記がなされた(<書証番号略>)。

4  ところで、昭和五四年八月二二日付の建物表示変更登記の申請書(<書証番号略>)には、被告内田・被告岡作成名義の同年六月二二日付の建物所有権証明書(<書証番号略>)、被告福井作成名義の同年八月一〇日付の建物引渡(取毀)証明書(<書証番号略>)が添付されていた。

5  なお、右両証明書(以下「本件証明書」という。)の内容は、次のとおりである。

(一) 被告内田・被告岡作成名義の建物所有権証明書(<書証番号略>)

(1) 新和興産が昭和五一年一一月一〇日、本件増築前の建物の一部を取り壊した上、本件増築部分を増築したこと。

(2) 本件増築後の建物は新和興産の所有であること。

(二) 被告福井作成名義の建物引渡(取毀)証明書(<書証番号略>)

(1) 被告福井が、本件増築前の建物の一部を取り壊した上、本件増築部分を増築する工事をしたこと。

(2) 被告福井が昭和五一年一一月一〇日新和興産に対し、本件増築後の建物を引き渡したこと。

二当事者の主張

1  原告の主張

(一) 本件証明書は、被告らが作成したものではなく偽造文書である上、その内容も虚偽の事項が記載されている。

(二) 原告は、本件増築部分について所有権保存登記を申請をしようとしたが、本件証明書のため登記することができない。

(三) よって、原告は被告らに対し、本件証明書が偽造文書であることの確認を求める。

2  被告の反論

(一) 本件証明書は、「法律関係ヲ証スル書面」(民事訴訟法二二五条)ではなく、本件証明書の偽造文書確認の訴えは許されない。

(二) 本件証明書が偽造文書であることが確認されたとしても、少なくとも登記面とその原因関係たる所有権が合致する以上、現実になされた登記の抹消は不可能であり、本件証明書の偽造確認の訴えは、訴えの利益を欠くものであって許されない。

(三) 原告は、訴状では、被告らが本件証明書を作成したことを前提に、その内容の虚偽無効を主張していたのであり、原告が本件証明書が偽造文書であると主張することは、自白の撤回であって許されない。

(四) 本件証明書は、被告らが作成した文書であり、偽造文書ではない。

三本訴の争点

1  本件証明書の偽造確認の訴えの適否。

2  自白の撤回の許否。

3  本件証明書が偽造文書であるか否か。

第三争点に対する判断

一証書真否確認の訴えの対象について

1  確認の訴えは、権利又は法律関係の存否の確定のためにのみ、提起することができるのであり、単なる事実の存否の確定のために、確認の訴えを提起することは許されない。しかし、これには例外があって、法律関係を証する書面の真否の確定は事実の存否の確定に外ならないが、民事訴訟法二二五条は、特にその確認の訴えを提起できる旨の特則を設けた。かかる例外が存するのは、法律関係を証する書面の真否が判決で確定されれば、当事者間では右書面の真否が争えない結果、法律関係に関する紛争自体も解決する場合があるからである。

2 ところで、証書真否確認の訴え(民事訴訟法二二五条)は、全ての書面がその対象として認められるのではなく、「法律関係ヲ証スル書面」のみがその対象と認められるに過ぎない。しかも、右「法律関係ヲ証スル書面」とは、その記載内容自体から直接に一定の権利又は法律関係の成否存否が証明される書面でなければならず、法律関係の成否存否を認定するのに役立つが、直接法律関係を証する書面ではない単なる証明文書・報告文書等は、「法律関係ヲ証スル書面」ではない。

3 従って、例えば、手形・貨物引換書などの有価証券、定款・借用証書・売買契約書、贈与の意思表示をした手紙などは、直接法律関係を証する書面であるから、証書真否確認の訴えの対象となるが、貸金債務を認め支払の延期を懇願する旨を記載してある証明文書、借地権を譲渡したことを証明する旨の内容の証明書、第三者が他人間の貸借の事実は真実である旨を証明する文書等は、直接法律関係を証する書面ではないから、証書真否確認の訴えの対象とはならない。

4 これを本件についてみるに、<書証番号略>は、本件増築後の建物は新和興産の所有であることを証明する文書であり、<書証番号略>は、被告福井が新和興産に対し、本件増築後の建物を引き渡したことを証明する文書であって、これらはいずれも直接法律関係を証する書面ではなく、単なる証明文書に過ぎないので、「法律関係ヲ証スル書面」とは認められない(借地権譲渡証明書についての最高裁昭和三八年六月二〇日判決・裁判集民六六号五七九頁、土地分筆申告書についての東京高裁昭和四四年六月一六日判決・判例時報五六一号五三頁参照)。

5 以上の次第で、本件証明書の偽造文書確認の訴えは、証書真否確認の訴えとしても許されず、不適法な訴えである。

二原告主張に対する判断

1  原告は、本件増築部分について、原告名義で所有権保存登記を申請をしようとしたが、本件証明書のため登記することができないとして、本訴が証書真否確認の訴えの対象となり得ると主張する。

2  しかし、原告が本件証明書が偽造文書であることの確認判決を得たからといって、本件増築部分について原告名義で所有権保存登記が認められる訳ではなく、また、原告が本件増築部分について所有権保存登記ができないのは、本件証明書が存在するためであるともいえない。

3  のみならず、証拠(<書証番号略>)によると、本件増築部分は、外部への直接の出入口がなく、本件増築前の建物とは構造上も利用上も独立性を有しないものであって、本件増築前の建物に附合したものであり、本件増築前の建物とは別個独立の所有権の対象とはなり得ない上、本件増築後の建物は、本件増築部分も含めて、昭和五三年六月一九日に原告から内田眞澄に、次いで昭和五四年六月二二日頃内田眞澄から辻川克司に売り渡されたものであり、原告は現在本件増築部分に何らの権利も有しないことが認められる。

4  従って、仮に本件証明書が偽造文書であることを確認したからといって、原告の本件増築部分についての登記申請が認められないことには変わりがなく、原告の前記主張は理由がない。

第四結論

よって、本件証明書の偽造文書確認の訴えは、不適法な訴えであるから却下する。

(裁判官紙浦健二)

別紙物件目録

(一) 神戸市生田区山本通二丁目八三番地の一

家屋番号 八三番一

種類・構造 鉄筋コンクリート及鉄骨造陸屋根四階建旅館

床面積 一階 108.95平方メートル

二階 315.63平方メートル

三階 313.63平方メートル

四階 158.80平方メートル

(二) 前記(一)の建物のうち別紙図面にA・B・Cと表示した部分を除くその余の部分

床面積 一階 139.56平方メートル

(但しガレージ変更による減少前の面積)

二階 271.38平方メートル

三階 271.38平方メートル

四階  78.30平方メートル

(三) 前記(一)の建物のうち別紙図面にA・B・Cと表示した部分

床面積 一階   9.72平方メートル

二階  44.75平方メートル

三階  44.75平方メートル

四階  80.50平方メートル

別紙図面<省略>

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